2009年にわずか34歳の若さで夭折した天才SF作家・伊藤計劃。
本作は彼が遺した3本の長編小説を劇場アニメ化する<Project Itoh>の1作。
アメリカ特殊部隊の兵士を主人公に、世界各地で大量虐殺を引き起こしていると目される謎のアメリカ人の追跡とその暗殺作戦の行方を描く。
テロの脅威にさらされ続けたアメリカは、その恐怖に対抗すべく徹底した情報管理システムを構築していた。
一方、アメリカ以外の世界各地では紛争の激化が続いていた。
世界の紛争地を飛び回る米軍特殊部隊クラヴィス・シェパード大尉に、謎のアメリカ人の追跡ミッションが下る。
その男、「ジョン・ポール」は、紛争の予兆とともに現れ、その紛争が泥沼化するとともに忽然と姿を消してしまう。
かつて有能な元言語学者だった彼が、その地で何をしていたのか。
アメリカ政府の追求をかわし、彼が企てていたこととは…?
ジョンがチェコに潜伏しているという情報を元にクラヴィスは追跡行動を開始。
チェコにはかつてジョンと関係のあった女性ルツィアがいた。
「虐殺の王」と呼ばれるジョンの目的は一体何なのか…。
クラヴィスはジョンから驚くべき真実を聞かされる。
10年前のアニメ映画ながらタイトルからして面白そうなので観た。
義体やサイボーグ、光学迷彩らしき表現もあってどことなくあの攻殻機動隊を連想させる映像にワクワクさせられる。
ただ攻殻機動隊を知らないか概念が理解できない場合はこの作品の世界観がわかりにくいかも知れない。
アニメーションながらかなりのエログロな描写もあって完全に大人向けの作品のようだ。
「虐殺器官」という思い切り日本語なタイトルなのに主役はアメリカ人で基本となる舞台もアメリカなのは制限の多い自衛隊では何かと表現しにくいからか。
映像はビックリするほど美しくまるでモーションピクチャのように滑らかで独特な動きをする。
ある文法が虐殺を誘発させるという発想はなかなか面白いしオリジナリティがあると思うがコレでストーリーを広げるのはあまりに難解だ。
テロリストを制圧するシーンは迫力、リアリティ共に満点で本当にこんな兵器とかあるんだろうと妙に納得させられてこれを観るだけでもこの作品の価値はあるように思える程だ。
反面、ルツィアという女性への主人公の執着の理由が弱いし、ジョン・ポールに言葉で簡単に説得させられる展開もわかりにくい。
ただ戦争を赤裸々に表現するという意味ではここ迄のアニメーション作品はあまり観たことがないし正直凄いと思う。
最後は虐殺の理屈ばかりになってセリフで物語の辻褄合わせという手法はより難解になってしまって結果的に尻すぼみになった印象を受ける。
それでも最近観たアニメーション作品の中では白眉の出来だと思うし滅多にしない事だがこの作品だけは新たな発見がありそうなので、もう一度観て再考してみようと思う。